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文慈部:あなたをそこから自由にする名文たち

思想と哲学

「永遠のファシズム」からの文を慈しむ。

知識人たちには野蛮な不寛容を倒せない。思考なき純粋な獣性をまえにしたとき、思考は無力だ。だからといって教養をそなえた不寛容と闘うのでは手後れになる。不寛容が教養となってしまってはそれを倒すには遅すぎるし、打倒を試みる人びとが最初の犠牲者となるからだ。
それでも挑戦してみる価値はある。民族上の、宗教上の理由で他人に発砲する大人たちに寛容の教育を施すのは、時間の無駄だ。手後れだ。だから本に記されるより前に、そしてあまりに分厚く、固い行動の鎧になる前に、もっと幼い時期からはじまる継続的な教育を通じて、野蛮な不寛容は、徹底的に打ちのめしておくべきなのだ。

「永遠のファシズム」 p157

文と書籍の解説。

気の遠くなる現実を突き付けられる想いがします。やや長い引用になりましたが要約すると、不寛容といういわば狂気の前では、思考つまり正当であるはずの論理や知性は全くの無力だと。そんなに綺麗ではないと。その時点で全てが手後れだと。解決方法はただ一つ、幼少時からの教育しかないと著者のウンベルト・エーコ氏は続けます。
差別や偏見等と因果を共にする不寛容は、この場合洗脳のようなもの。そもそも洗脳自体が永い年月によって培われたものだから、さらにその上を行く教育という手段による地道な思考の書き換えが必要と言いたいのだと思います。だとすると、それは人間の本能的なメカニズムに挑むことでもあり、何十年、いや何百年単位の話になるでしょう。場合によっては遺伝子レベル、はたまた霊的なものでもあるから。

人間の本性が変わらない限り。

今回のこの文は相当に影響力があるのでしょう。他の書籍でも引用されているページに度々出会います。たとえばこんな書籍にて。
「この不寛容の時代に: ヒトラー『わが闘争』を読む」
「HATE! 真実の敵は憎悪である。」
両書とも深い教養を提供してくれて面白いです。
本書 「永遠のファシズム」 自体もジャンルを問わず話題に上ることが多いので、読書家のあなたには頭の片隅にでも置いて頂ければ宜しいのではと思われます。私も、これから別の書籍で再会するかもしれません。
さてこの部分が各書籍でどう触れられているのか。一例として、「HATE!」 での引用を見てみましょうか。

「ウンベルト・エーコも、「異民族や他国を見下したり排斥したりする『不寛容』は、人間の本能に近い『獣性』のようなものであって、これは『教育』によってただすしかない」 と言ったそうだ。
相手のことを知ろうとしないところから差別・憎悪ははじまる。エーコの場合の 「教育」 は、「歴史に学べ」 ということだろう。人間の本性が変わらない限り 「歴史は繰り返す」 からだ。
しかし、今や知性も危うい。」 p372

如何でしょうか。やはり差別や排斥にまつわる内容で出てきます。教育ならびに知性という力の重要性が伝わってきますね。そしてエーコ氏のこの発言は引用の形だけにとどまらず、広く受け継がれてほしいと切に感じてもいます。

ファシズムとは。

ウンベルト・エーコ氏はイタリアの文芸評論家、もしくは哲学者。2016年に逝去されたとの情報からもわかるように、私たちと同じ現代に生きた代表的知識人です。さらにはノンフィクションに近い独創的な小説も残しています。その代表作に 「ヌメロ・ゼロ」
世界の課題を鋭く問い詰める作風が特徴で、不思議と耳を傾けたくなる物言いが盛りだくさんです。
そこで個人的には興味が芽生え、いろいろと読んでみようと本書でデビューです。勿論理解は一朝一夕には及びませんが、彼の知性にあやかりたいと強く感じています。だからこそオススメしたい。

ところでファシズムという言葉、あなたはどんなものと考えますか?
昨今 「禁煙ファシズム」 のように気軽に使われる感もある言葉です。しかし元来は、知れば知るほど見えなくなるような複雑な概念、そして思想・体制だと気付かされます。少なくとも気軽ではありません。本格的に知るには他の文献も必要となってきますが、私としては適当に使いたくはないので、きちんと知っておきたく、これからも学び続けるつもりです。
(参考文献 「ファシズムとは何か」)

ちなみにエーコ氏は幼少期にムッソリーニが行ったファシズム体制を経験しているので説得力があります。イタリア人ならではですね。有難い情報です。

おわりに。

あえて尖った表現をお許し下さい。世を眺めれば、不勉強で物事を知らない人ほど不寛容になっていく事実も否めません。だからこそ教育のような人から人へと伝える媒体の役割が大きくなっていく道理がわかります。日常のひと言も同じ。だから今回の文では、まず少しでも解決の力になれないものかと、半ばライフワークの如く次世代に伝えていく使命を感じさせます。
ふと思えば、隣国の反日教育もこれと原理を同じとするもので (物議を醸すのは重々承知ですが)、無垢な若い脳に刻み込んでいくことに他なりません。それをさらに書き換え返すのがエーコ氏の言葉。気の遠くなる話でも、地道な伝える活動しかないと教えられます。
教育が、そして教育機関がそれを自覚してくれることを祈ります。教育は大事。ただの知力はヤワ。同時に子どもたちに手を施すことは怖いことでもありますが。

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ブンジブ主筆、そして編集長。知的好奇心は尽きず、月30冊の読書量をもっと増やしたいと願う毎日。