そして、たったひと通りの読み方しかできない漢字もある。普通二つ以上なのでめずらしいのだが、じつは 「死」 の読み方は一つだけ。
「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」 p301
つまり、「生」 とはいろいろな読み方ができるものである一方、「死」 とはただ一つの読み方しかない。「生」 はくっつく漢字や送り仮名によっていろいろなものに変わるけれど、「死」 は何がどうくっつこうと変わらない。
そこにどんな意味を感じ取るかは人それぞれだけれど、事実としてはそうなんだ、ということを伝えるのもいいかも。「生きるとは何か?」 「死ぬとはどういうことか?」 に対するヒントが、「生」 「死」 という漢字そのものの読み方にあるんだ。
文と書籍の解説。
何故読書が好きなのか? 度々聞かれるこの質問。それにしっかりと納得する答えが出せた記憶は無いに等しく悶悶。
でも好きなんでしょ? ならばこう考えてみれば良いんじゃないかな?
著者のDain氏から、そう脳裏でささやかれるよう。そして、これでもかと言うほどの本への想いと愛情が、実にテンション高く注ぎ込まれた、ユーモラスで知性にもあふれた書籍。本好きなら是非とも所持しておきたい。非常に分厚くて、情報が盛りだくさん。
今回の文は、その知性あふれる中で遭遇した表現。親しみやすさの中にも意味深長な空気感があります。
そこで、全くもって独断なのですが、この表現はメチャクチャ好きで、ついそれをお伝えしたくなってしまったのです。文中にもありますが、感じ方は人それぞれとあるので、お読みのあなたにとっても想うことはたくさん生まれる表現かもしれません。それは尊重したいと思います。ですが、ひとまずここでは私見を語っても良いでしょうか? 無駄な話はしないつもりです。並行して、この本の良さもより強くお伝え出来たら幸いです。
生きるとは、食べること。
この表現が好きとは言えど、これはあくまで日本語の漢字としての読みの話なので、世界にあまねく通用するとは限りません。しかしながら、何だか大切なことを考えさせられ、何かが導き出せそうで、たとえ外国語にしてでもこの概念は伝えたいと思わせます。
さらに、人には生き様も死に様も多々あるものですが、死は、悲しいかな、万人に平等に与えられた摂理で、絶対に例外なく行き着くもの。全てが無になり、一つに収斂すると、個人的には読めてきます。
逆方向から眺めると、一つの 「死」 に対して、そこへのプロセスは多々ある――愛読書でもある 「風姿花伝」 を読んだ際にも感じたのですが、死に様というそのプロセスに目を向けるようになった自分がいます。
特に先の書からは、人の老い方と朽ち方を考えさせられる芸の一生が書き連ねてあるのです。ちらっと脳裏をよぎりました。良い本なので是非お手に取ってみて下さい。
死生観や人生観が目まぐるしく変遷する一助になったかと思わせます。どう朽ちていくのか。それが大人になってからの大きなテーマになっていったのです。
さて本書は、次から次へと色彩豊かなテーマが登場してきます。性や教育、そして料理や怒りの原理等々。この度の死に関するテーマもその一つ。どの部分にも決して心地良いだけではない生々しい表現も見られ、脳が揺り動かされる感覚に陥ります。老若男女全てに読んで欲しいほどの感性豊かな内容です。
特に脳裏に残ったメッセージが、 「生きるとは、食べること。死ぬとは、食べられること」。
最後の章にてお目に掛かれます。
一見すると摩訶不思議で、見方によってはトンデモない表現にも思われそうですが、読んでみてなるほどと思わされます。そこは読んでみてのお楽しみ。
そもそもこれは一体何の本?
そういうわけで、本書の内容は本当に面白く、読者を退屈させません。活字が躍り出すようで、そこに著者の喜びが伝わってくるのです。Dain氏は本当に本が好きなんだなと。
ただ、そう言いたい反面、手にした当初は、これは一体何のための本だろうかと様子をうかがいながら読んでいた自分がいます。そして何度か読破した今でも (何度でも楽しめるのです)、結局何の本とあなたにお伝えしたら良いのだろう?
本の解説書? 本とは何か? 本と人生? 本の読み方?――これだけ並べると何となくわかりますか?
一応、本の帯では “かつてない本の味わい方を、名著の数々とともに伝える” と銘打っていますね。その流れで、本の紹介や引用がとても多いので、それをまず読んでみるのもアリ。試しに私は読んでいます。
不思議なタイトルの意味も少しずつわかってきます。
本を通じて人を知り、人を通じて本に会う極意。
良い本に出会うためには、それを読んでいる人を探す。良書が良書を紹介するというのも、私自身結構使ってきた技です。これにはほぼ間違いがありません。
ところで、付録のグロいのは途中で読むのをやめました。あまり自分には良くなさそう。ここだけはおススメしません。実のところ、著者も薦めてません (!)。とは言え、繰り返しになりますが、著者の知っている本の量はスゴいですね。あやかりたい。
おわりに。
考えさせる内容が多い本でした。間違いなく何度も読みたくなる。著者のDain氏が親しく話しかけ、硬軟交えて本談義を楽しむ感じで、読書というよりもコミュニケーションにも思えます。
終わりに近付くにつれ、Dain氏自身の考えをもっと聞いてみたく名残惜しくも。今回は久しぶりに死生観について考えるキッカケを与えてもらったので良かった。シンプルだけど深い洞察。そして漢字ってやはり面白い。表現や感性を無限に広げてくれる。やっぱり本って楽しい。改めてそう実感するに至りました。
読書のことを考えたくなって、この辺の書籍も手に取ってみました。面白いですよ。
「読書について」
「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」
もっともっと本というものを知りたくなりました。そしてもっと上手く何故読むかが伝えられるように。