生き残り、繁栄するためには、個体は世界で最も強かったり速かったり賢かったりする必要はない。弱く、遅く、賢くなくてもいい。重要なのは、同じ種のなかで必要なものを獲得する競争に勝つことなのである。
「ダーウィン・エコノミー」 p48
文と書籍の解説。
「適者生存」 はこの世の全生命活動の摂理――。
今回の文自体は、ダーウィンの進化論の中でも半ば代名詞的な格言の一つとして、よく知られているかと思われます。ならばあえて取り上げることもないだろっ! とお叱りを受けそうですが、ひとまず落ち着いて下さい。実際に世に広まっている表現は若干異なり、こんな感じです。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化出来る者である」
言わんとしていることはいずれも 「適者生存」。生命の生存とは、作為が無く、実に理に適っていて、シンプルに作用しているといつだって教えられます。
ところが近年、この台詞はダーウィンのものではないという意見もこのようにチラホラ出ています。ですが、ここではその真偽のほどは別の内容なので言及を控えます。ご容赦下さい。
ではこれらを踏まえ、ダーウィン・エコノミーと題された本書の深い意味とは?
そしてどのような本なのか?
経済学の父がこうして交代する。
まず読んでみると、本書は行動経済学の本だとわかります。ご存じない方のために行動経済学たるものを簡単に説明しますと、経済は感情で動く一面もあるので、それを心理学や倫理学に照らして考えてみるものといったところです。ちなみにこちらの本の表紙にはとてもわかりやすいフレーズが並んでいます。
「マンガでわかる行動経済学 いつも同じ店で食事をしてしまうのは? なぜギャンブラーは自信満々なのか?」
個人的には行動経済学に面白さを感じ、ややハマっているのです。思考力や決断力の向上に役立つ!
さてそこで、何故にダーウィン・エコノミー。
要は経済とて小難しいものではなく、人間の織り成す業に違いはないので、進化論の過程を基礎に考えてみては、ということです。ちょっと洒落た表現をすれば生命の摂理には逆らわずに考えた方が良いと言えるでしょう。
そのようなわけで、これまではアダム・スミスが 「経済学の父」 と呼ばれてきましたが、今から100年後には彼に代わりダーウィンがそう呼ばれるに違いない。著者の経済学者ロバート・H・フランク氏がそう提唱したコンセプトで本書は始まります。この発想は悪くない。
とは言え、アダム・スミスもその著書 「国富論」 にて、需要と供給の科学を意味する 「見えざる手」 を唱え、ある種の世の摂理に触れているような気もするのですが。もっと読み込んでいきましょうか。
ダーウィンの知られざる一面。
生殖に有利な変異を選ぶ自然選択説とコスト抑制のイノベーションが類似するという話が印象に残ります。こんな字面だけを追うとややこしいですが、生物の遺伝は資本主義社会の競争に負けず劣らず厳しいもので、見つめるべきことが多いと思い知らされていくことをお伝えしたい。
後半は行動経済学の真骨頂で、利害や論理がぶつかった時の数学的な解決法や思考法へ。あなたならどうするかというような倫理を問われる部分も多くなります。何故タバコに税金が掛かるかのメカニズムにも納得がいきます。
この辺りに来ると、私見ではもっと生物のサガや大きな摂理に焦点を当てて欲しかったと感じます。元の発想が興味深いだけに、こんな時どう解決するかを述べた普通の行動経済学の本に成り下がってしまったような印象を残すのが残念でなりません。
ここで余談が2つ。
1つ目ですが、こうして本書を読んでいく中でこの書籍を思い出しました。
「それをお金で買いますか 市場主義の限界」
ハーバード大学教授として活躍する、かの有名なマイケル・サンデル氏のベストセラーです。この本も商業と倫理を考えさせられ、かつ新たな視点を提供してくれてオススメです。
そして2つ目は、ダーウィンと言えば動物を研究したイメージを持っていませんか?
実は専門家の間では、彼は経済学にもかなり通じていたことが知られています。そのためか、進化論をよく読むと経済学の影響を色濃く受けていると思われる箇所がたびたび登場するとのことです。そう考えると、本書のコンセプトに辿り着いた著者の発想もあながち的外れではないですね。
おわりに。
独特なタイトルに惹かれ手にした本書。興味が色褪せず、好奇心も満たされ続けて、3度ほど読破しました。難解に感じるのも否めず苦労はしますが、経済という世のカラクリはいくら知っておいても損は無く、わかっておきたい気にさせます。やはりビジネスも経済も生物の摂理を学ぶことに収斂するのです。
だからこそ、進化論も、「国富論」 もきちんと知りたい。そんな想いが心に残ります。それらをしっかり読み込んで理解した後に再度触れたら、また新しい発見が見えてくるかもしれません。そこが楽しみです。