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文慈部:あなたをそこから自由にする名文たち

西洋の古典

「デカルトの憂鬱」からの文を慈しむ。

なるほど皆さんだって、いや、それこそ私だって、学生時分はそれなりに勉強はした。きちんと宿題をこなし、試験勉強もやった。それでも、もっと勉強すればよかったと思うことがある。そう思うのは、いやそう思えるのは、あの時まがりなりにも勉強したからなのです。一度も勉強したことがない人に、もっとしっかり勉強すればよかったという後悔や反省の生じる余地はありません。しかし、もしそのような後悔や反省が少しでも湧いてきたら、それはチャンスです。この苦い思いをバネにすれば、やり直そうと思えるからです。そして、そうしようと思える機会がいつか訪れるのを待つためだけでも、学校で勉強しておくことの意味はある。

「デカルトの憂鬱」 p178

文と書籍の解説。

何だか少し救われる気がしませんか? 後悔は良い過去の証拠とは逆説的ですが、なるほどこの考え方があったかと。
人は悲しい生き物で、大人になってから学生時代の勉強の意味を知り始めます。まるで霧が晴れていくように。誰しもそうだと言いたいのですが、あなたがもし違うなら謝ります。
それはさておき、やはり私見では、大人になって少しの後悔を味わってから、より良いモチベーションと目的意識を持ち効率的に学べているのも確か。今ならもっと出来そうな――。今回の文に照らせば、それもまあ良いのだと慰められます。
逆に今度は次世代に、学生時代の勉強の意味・・・何故勉強するのかをどう伝えるべきか。振り返っていろいろわかる大人とは異なり、時代の渦中にいる学生たちにこんな後悔の良さを語ったところでピンと来ないでしょう。結果論でわかる答えはあれど、リアルタイムで出せる普遍的で絶対的な答えは見付けにくい。さてどう説明すればよいのやら。

デカルトに聞いてみよう!

まずここで本書のテーマ、デカルトについて簡単に。
デカルトは17世紀のフランスの哲学者。付いた異名は主に 「近代哲学の嚆矢」 「西洋近代思想の出発点」 といったもの、つまり学問のさきがけです。
そんな彼の有名な台詞である 「我思う、ゆえに我あり」。まさにこれは異名の通り、それまで世に流布していた共通認識を徹底して疑う中で生まれたもの。真理を追究する謙虚さも含まれます。
ただ残念なことに、彼が生きた時代は宗教のせいで合理的考えが認められなかった時代。ガリレオの地動説に対する裁判を耳にした彼がジレンマを抱えていた様子も著作から読み取れます。

その著作の中で代表的なものが 「方法序説」。オススメです。
これこそ私たちに学ぶ意味を考えさせ、理知的にさせてくれるのです。この中でデカルトは学校教育を批判しますが、それは彼自身がモーレツに学び、疑問が生じたからこその批判なのです。これが今回の文に繋ります。

一貫して学問と真剣に相対したデカルト。彼の功績はもう一つ。
実は当時の哲学で当たり前とされたラテン語を廃し、万人に学問をとの想いから誰でもわかるフランス語で書籍を展開したことです。総じて、学問のさきがけという表現に相応しい道を歩みました。

学ぶ意味に加え、読書の意味も。

本書はデカルトの入門書です。タイトルからはわかりにくいかもしれません。
入門書と言えば、私はこれまでにも 「デカルト入門講義」 「デカルト『方法序説』を読む」 等も読んできました。これらは決して悪くはないのですが、詳しくない私のような身分からすれば予備知識が無いとやや辛く感じます。
そんな中、一番わかりやすいと思ったのが本書。主題別のエッセイのようで、どこからでも読める独特な構成。代表作からの引用も非常に多いので、デカルト語録としても活用出来そうです。
たとえばこんな引用は如何でしょうか。

「良書を読むことはいずれの場合も、著者である過去の時代の一流の人々と親しく語り合うようなものだ」

学ぶ意味に加え、読書の意味も教えられますね。そして、まさに彼と話をしているような。
また著者の津崎良典氏の知識も幅広く、話題によっては孔子や仏教のエピソードまで登場。こうして見ていくと、本書を傍らに置きながら原典を読んでみるのも良いかもしれません。

おわりに。

著者がデカルトの研究者だけに解説も豊富でした。さらに巻末には、日本で手に入るデカルトの関連文献を列挙。日本も相当なデカルト大国と著者は言います。余談ですが、フランスでは、国語にあたる授業でデカルトが教材に使われるとのこと。

己の中で思考を闘わせてきたからこそ、彼の理論は時も国境も越え、私たちに一読の価値を与えてくれるのでしょう。また、デカルトが完全無欠な答えを出してくれるわけではないにせよ、いつも多くのヒントを与えてくれる。そんな気がしています。

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ブンジブ主筆、そして編集長。知的好奇心は尽きず、月30冊の読書量をもっと増やしたいと願う毎日。