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文慈部:あなたをそこから自由にする名文たち

世界情勢

「民間防衛 あらゆる危険から身をまもる」からの文を慈しむ。

自分の国を愛するということは、まず、経済面であれ、政治面、知識面であれ、その国の現実のあらゆる面について、より深い知識を得る方法を学ぶことである。それは、また、国家に奉仕するため、国家を守るため、そして、国家をよりよくするために、みずからの力を出すことである。戦争になったら国家に最高の贈り物をする覚悟をすることである。さらに、その贈り物が、国家にとって有益でなければならない。
この本は、人生の価値に訴える。

「民間防衛 あらゆる危険から身をまもる」p23

文と書籍の解説。

あふれる愛国心は涙を誘います。素晴らしい。その一方で、殊に日本人の深層心理においては、こうした表現にある種のトラウマがあるのではと疑心暗鬼になります。
このような一文をお読みになって、あなたは純粋にどう感じましたか?

今回の文はちょっとオドロキの書籍からの抜粋を。
これはスイス政府が各家庭に一冊ずつ配った国防に関する本。有事の際、どのように心も体も物も準備をし、生き延びるか。そのクオリティはちゃちなパンフレットのようではなく、内容盛り沢山の分厚い本なのです。原文はドイツ語でしょうか。
これを配ることからして本当に驚きです。国防は他でもない、国民一人一人のここまでの意識次第なのだと痛感させられます。日本人も目を通しておく価値ありです。災害時の危機管理にだって使えます。

愛は大切だ。近代だ。

文をもう少し噛み砕いてみましょう。ポイントは2つ。国のためと愛。
冒頭でも触れましたが、愛国心を大義にしてからの 「国のために」 云々というのは、とかく我が国での戦争·国防の話題においては誤解の種になります。
しかしながら、そんな時こそ立ち止まってよく考えてみませんか?

結論から言えば、近代民主主義や国家を学ぶと、国民として 「国のため」 云々という論理は至極当然なことだとわかります。国民には自律の名のもとに国防の義務があり、それによって主権と自由が与えられる。これはルソーが唱えた社会契約論の一部。(参考文献 「大人の道徳」 )

そして次に、愛は関心。愛国心が国を守ることに目を向ける助力に。
私の想いとしては、熟考し言葉も用意した上で、愛国心とその本質を次世代に伝えたいのです。愛を唱えるのは決して恥ずかしいことではありません。
こう考えていくと、何気ないこの文の存在はとてつもなく大きいのだと悟ります。

永世中立国は平和の象徴なのか。

スイスは永世中立国で有名です。アルプスに囲まれた地理も加味され平和なイメージがあるでしょう。しかし、断じて違うことを本書が教えてくれます。内容は相当にショッキングですが、同時に国家として自律した成熟さを感じさせるのも事実です。

さて永世中立という概念は、不戦や非武装を全く意味しません。
まずはどこの敵にも味方にもならず、徒党も組まないことから始まります。それは裏を返すと、どの国とも戦争をするということなのです (ただし防衛のみ)。例えばかつて第二次世界大戦時、どの国の戦闘機であろうと、自国領空を侵せば撃墜したとのこと。中立を保つには逆に相応の軍備を要します。加えて現在はEUに非加盟。通貨もスイスフランのままでユーロには非加盟。国連にも2002年まで加盟していませんでした。

そんな国の国防の本なら予想がつきませんか?
あらゆる攻撃からの避難法、核戦争の説明、手当の方法、そして国際法。続いて経済戦争、プロパガンダによる心理戦争への準備とかなり筋金の入った内容です。後半はストーリー仕立てで実際の戦争をシミュレーション。
さて、これから何がわかるか。

おわりに。

スイス国民にとっては、民主主義のもと、国防をこのように当たり前に考えてきたのかもしれません。
私たち日本人にとってはどうか。
まるで、平和は易しいものではないっ! こうまでしてやっと得られるのだっ! と叱咤されるようです。
日本は国防においてどのような道を歩むのか。早急に答えを出せなくても関心を持って学ぶことが求められます。戦後、蒙昧にさせられてから久しい私たちにとっては、それ自体も戦いです。

翻訳:原書房編集部
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今回登場したその他の参考書籍

著:古川 雄嗣
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ブンジブ主筆、そして編集長。知的好奇心は尽きず、月30冊の読書量をもっと増やしたいと願う毎日。