「ものを書こうと思うなら、処刑されるつもりになって集中力を高めなければならない」と。
「サードドア 精神的資産のふやし方」 p373
文と書籍の解説。
これはこれはズキュンとくる言葉です。短くて破壊力アリ。
処刑というと禍々しい表現かもしれませんが、悔しいけれどそれほどまでに裁かれる覚悟で事に当たれよというのは極めて正論です。特に、己の身一つで表現・発信の世界にエントリーする時には、その覚悟が何より必要となってきます。
・・・そうなんですよね。私としてもこの通りだと気付かされています。生業であれば、そこには弁解も逃げ道も無い。批判や無視なんていう裁きは当たり前にある。このようにして、いざ言葉として思い知らされたのは久しぶりでしょうか。
マイノリティの苛酷さがそう語らせる。
本書は夢を実現するための心の処方箋です。周囲に気付かれることの少ない、3つ目のドアを探し開けることをテーマにしていますが、そのドアが何かは読んでのお楽しみ (既に商品ページに書いてあるかもしれません)。
著者のアレックス・バナヤン氏が大学時代、あることを一冊の本にしようと思い立ちます。それは成功を収めた多くの著名人が、どうやってそのキャリアを踏み出せたのかをまとめたもの。そうして彼 (女) らへのインタビューの実現を目指すところから話が始まります。抽象的に思えるタイトルとはうって変わって、そんな著者の具体的な歩みを綴った実話です。一つの物語。
その展開はスピード感があってスリリング。あまりにも波乱万丈。
本来会うことが難しい人物への一青年のアプローチであることから、上手くいかなさ過ぎる事態の連続。
全体的に文脈から教訓を読み取っていく趣きで、その意味では何も与えてくれないように感じるかもしれません。
しかしながら、望みをかなえることの辛さは手に取るようにわかるのです。向こう見ずな主人公には、かつての自分の姿が重なり、微笑ましく。逆に時折、読むのが辛くなることも。そんな感情移入。
さて今回の一文は、その活動の中でこぎ着けたインタビューのうち、グラミー賞受賞の実績を持つ活動家の黒人女性マヤ・アンジェロウ氏からのひと言です。85歳の彼女が若い時分に悟ったこと。とりわけ彼女のマイノリティとしての生き様がこの言葉を象ります。
そうなんだよ、ホントに。
その生き様とは?
アメリカという国の人種差別が今以上に当たり前で、人としての尊厳すら与えられてこなかった時代を生き抜いた様。
そこから出る覚悟の台詞。その言葉は重い、重過ぎる。でも彼女はパワフルで底抜けに明るい。個人的には人としてのマヤ・アンジェロウ氏に興味が沸きます。実績云々ではないのですね。仕事へのスタンスは勉強にもなり、共感します。
さらに他にも彼女からのこんな言葉があるのです。是非お届けしたい。
「書くことほど怖いものはないけれど、書くことほど自分を満足させるものもない」
「私のしているのは簡単なことじゃないって、いつも自分に言い聞かせているわ」
仕事への愛・敬意・執念・・・勿論私自身も心掛けてきましたが、忘れかけて萎えそうな心に、もう一度それらを映し出してくれました。
おわりに。
こう書いておいて恐縮ですが、この一文に多くの言葉は要らなかったかもしれません。ただ、言葉や活字を大切に扱ってきた性 (サガ) もあり、何かを伝えたい衝動が勝りました。脳内で。止められませんでした。
先にも述べましたが、本書自体は失敗や波乱の物語で、各描写から教訓を自らで掘り出していく趣きに賛否は分かれるかもしれません。とは言っても、そこはふとした時に発せられる名言や教訓の宝庫。他にいくらでもあったのです。
そんな中で一番印象に残った今回のこのシンプルな言葉。発した人物の背景も含め、改めて心に刻み込んでみようではありませんか。